【業績】脳卒中後の熱痛覚過敏に重要な脳領域を特定‼(2022.7.7)

長坂和明講師(理学療法学科 神経生理ラボ・運動機能医科学研究所 研究員)の研究論文が国際誌「European Journal of Pain」に採択されました.
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研究概要:
脳卒中患者全体の10%程度に,触られることによって痛みが生じる異痛症や,通常の痛み刺激よりさらに痛みが増す痛覚過敏が生じることが分かっています.この背景メカニズムは良く分かっておらず,確立された治療法はないのが現状です.これまで私たちは,当該病態を再現するサルモデルを確立し(Nagasaka et al., Scientific Reports -2017-),後部島皮質・二次体性感覚野と呼ばれる部位の過剰な脳活動上昇を報告してきました(Nagasaka et al., Experimental Neurology-2020-).さらに,これら脳領域を薬理学的に抑制することによって機械刺激に対する異痛症が減弱することも分かっていました.本研究では,前述した異痛症と,温熱刺激に対する痛覚過敏が,病態のメカニズムとして共有された神経基盤を持つのかを行動薬理実験で調べました.結果,サルモデルの後部島皮質・二次体性感覚野にムシモル(抑制性の物質)を投与すると,温熱刺激に対する痛覚過敏が減少することを示しました.この結果は,触覚刺激や温熱刺激によって誘発される異常な痛みには共通の神経基盤が存在することを示唆します.

研究者からのコメント:
本研究データの重要なポイントは,後部島皮質・二次体性感覚野の抑制は,異常な痛みは減弱させるが,通常の痛み(例:熱いものを触ったときに熱いと感じる)は完全に失わないことを示唆した点です.従って,将来的に当該領域へ非侵害性に介入することができれば,必要な感覚機能は保ったまま,異常な知覚感覚だけを制御できるのではないかと考えられます.この手法の確立を目指して研究を続けていきたいと思っています.

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(左)抑制した後部島皮質・二次体性感覚野の部位.(右)痛覚過敏を呈す脳卒中後疼痛モデルへのムシモル投与の効果.ムシモル投与後の50℃や52℃の刺激に対する疼痛閾値は,偽薬投与後と比較して増加した.

原著論文情報:
Kazuaki Nagasaka (Corresponding author), Ichiro Takashima, Keiji Matsuda, Noriyuki Higo. Pharmacological inactivation of the primate posterior insular/secondary somatosensory cortices attenuates thermal hyperalgesia. European Journal of Pain (in press). DOI: 10.1002/ejp.1996