★ 運動学習の個人差要因の一部を明らかにしました!!―遺伝子と脳内活動に着目して―(2021.06.22)

日本学術振興会海外特別研究員として,The University of Adelaide(生理学教室)に留学中の佐々木亮樹さん(理学療法学科11期生,大学院博士後期課程2018年度修了,運動機能医科学研究所)の研究論文が「Behavioral Brain Research」に掲載されました!!

研究内容の概要:

運動学習は新しいスキルを獲得するための重要な機能でありますが、その機能には大きな個人差が存在します。そこで本研究では、その運動学習能力の個人差になりうる脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor, BDNF)の遺伝子タイプと運動関連脳領域における神経代謝性物質集積量の影響を調査しました。まず初めに、全被験者(n = 44)から血液を採取し、遺伝子解析によって各被験者の遺伝子タイプを同定しました(Val/Val, Val/Met, Met/Metタイプ)。その後、手指の運動による視覚追従課題を計測し、この課題で得られたデータを基に個人の学習能力を評価しました。その結果、Val/Valタイプと比較してMet/Metタイプでは、早期学習ステージの学習スピードが有意に速いことが明らかになりました(p < 0.05)。また、magnetic resonance spectroscopyを使用して、運動学習に重要な一次運動野、一次体性感覚野、小脳領域における興奮性の神経代謝性物質の集積量も計測しました(n = 19)。その結果、早期学習ステージにおいて一次体性感覚野領域のGlx(Gln+Glu)濃度が低い被験者では、学習スピードが速いことが示されました。以上より、BDNFの遺伝子タイプと一次体性感覚野領域におけるGlx濃度は運動学習の早期ステージに限局して運動学習の個人差に貢献することが明らかになりました。

佐々木先生からのコメント:

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運動学習は、新しい運動スキルを学ぶ上で、日常生活上にてしばしば要求される機能になりますが、大きな個人差があります。すなわち、ある技能の獲得に対して上手な人、下手な人が存在します。この要因には様々なものが関与すると考えられておりますが、決定的な要因は明らかになっておりません。そこで本研究では、遺伝子レベルと脳活動の違いに着目して、運動学習の個人差の要因の一部を調査しました。

本研究成果のポイント:

① 健常成人44名を対象に血液を採取し、遺伝子解析によってVal/Val、Val/Met、Met/Metの3タイプに分類しました。その後、視覚追従課題を用いて個人の運動学習能力を評価しました。

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1. 視覚追従課題の概要図

A)計測ポジション、B)スクリーン上で表示される視覚追従課題。

② 運動学習の早期学習ステージにて、Val/Valと比較してMet/Metタイプで学習スピードが有意に早いことが示されました。

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2. 遺伝子タイプにおける学習スピードの違い

マイナス値が大きくなるほど、学習スピードが速いことを示している。略語:ELS, early lerning stage(早期学習ステージ);LLS, late learning stage(後期学習ステージ)。

magnetic resonance spectroscopyを使用して、左一次運動野、左一次体性感覚野、右小脳半球からGlx (Gln+Glu)の集積量を測定しました。

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3. 各領域で測定された個人のスペクトラムデータ

A)左一次運動野、B)左一次体性感覚野、C)右小脳半球。

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4. 一次体性感覚野におけるGlx濃度と各学習ステージにおける学習スピードとの関連性

略語:ELS, early lerning stage(早期学習ステージ);LLS, late learning stage(後期学習ステージ);S1, somarosensory cortex(一次体性感覚野)。

 
  
原著論文情報
  

Sasaki R, Watanabe H, Miyaguchi S, Otsuru N, Ohno K, Sakurai N, Kodama N, Onishi H. Contribution of the brain-derived neurotrophic factor and neurometabolites to the motor performance. Behavioral Brain Research. In press.