★他動運動に伴う体性感覚入力は一次運動野の興奮性を増大させることを解明!!(2018.06.28)

大学院博士後期課程2年の佐々木 亮樹くん(神経生理・運動生理Lab,運動機能医科学研究所,大西研究室)の研究論文が海外雑誌『Neuroscience』に掲載決定しました.

佐々木くんは末梢の運動が脳に与える影響の研究などを行っており,大学院生でありますが数多くの研究論文を発表しております.以下,研究についての紹介を行います.

研究概要

体性感覚入力は,一次運動野の興奮性に影響を与えることが明らかになっております.末梢神経電気刺激を用いた研究では,電気刺激後の20-30 msで一次運動野の興奮性が低下し,40-80 msにて一次運動野の興奮性が増大することが報告されています.しかし,運動によって誘発される体性感覚入力は,一次運動野の興奮性にどのような影響を及ぼすのかは不明です.そこで本研究では,他動運動で生じる体性感覚入力が一次運動野の興奮性に与える影響を明らかにすることを目的としました.

他動運動に伴う体性感覚入力は一次運動野の興奮性を増大させることを解明

研究概要

体性感覚入力は,一次運動野の興奮性に影響を与えることが明らかになっております.末梢神経電気刺激を用いた研究では,電気刺激後の20-30 msで一次運動野の興奮性が低下し,40-80 msにて一次運動野の興奮性が増大することが報告されています.しかし,運動によって誘発される体性感覚入力は,一次運動野の興奮性にどのような影響を及ぼすのかは不明です.そこで本研究では,他動運動で生じる体性感覚入力が一次運動野の興奮性に与える影響を明らかにすることを目的とした研究を行いました.

佐々木くんからのコメント

佐々木くん個人写真.jpg

リハビリテーションでは,他動運動は関節可動域の改善や維持を目的として行われる運動療法の一つです.一方,他動運動による体性感覚入力は,大脳皮質の活動に影響を及ぼすことが報告されております.本研究では他動運動を用いて,運動中枢である一次運動野の興奮性に及ぼす影響を調査しております.今後,他動運動を使用して,一次運動野の興奮性を持続的に変化させることが可能なリハビリテーション手法の開発を目指しております.

研究のポイント

1) 具体的な目的

A) 一次運動野の興奮性は,他動運動開始から磁気刺激までの時間に依存して変化するのかを明らかにする(実験1).

B) 一次運動野の興奮性は,他動運動の角速度に依存して変化するのかを明らかにする(実験2).

C) 一次運動野の興奮性は,他動運動の関節角度に依存して変化するのかを明らかにする(実験3).

2) 対象と方法

本研究には健常成人29名が参加した.実験1では,一次運動野の興奮性評価に経頭蓋磁気刺激によって誘発される運動誘発電位(MEP)を用い,右第一背側骨間筋より記録した.また.他動運動は角速度80°/secの右示指内転運動であり,他動運動開始から磁気刺激までの間隔(ISI)を30,60,90,120,150,180,210 msに設定した.磁気刺激は,他動運動中に示指中間位で与えた.実験2では,他動運動は角速度40°/secまたは160°/secで行い,ISIを30,90,150 msに設定した.磁気刺激は他動運動中に示指中間位で与えた.実験3では,他動運動は角速度80°/secとし,ISIを30,90,150 msに設定した.また,他動運動中に磁気刺激は,示指外転10°または内転10°で与えた.

3) 研究結果

A) 一次運動野の興奮性は,他動運動開始から磁気刺激までの時間に依存して変化した.

→ISI_90-150 msにて一次運動野の興奮性が増大

B) 一次運動野の興奮性は,他動運動の角速度と関節角度に依存して変化した.

→他動運動の角速度が速く,対象筋が伸長されるほど一次運動野の興奮性は増大

佐々木TIF.tif

図1.実験1の実験プロトコール.XはISI,Yは他動運動開始時の示指外転角度を示している.

佐々木図2.jpg

図2.ISIに依存したMEP変化.BaselineのMEP波形と比較してISI_90,120,150 msでのMEP波形が大きくなっている.

佐々木図3.jpg

図3.各ISIにおけるMEP変化.Baselineと比較してISI_90,120,150 msでMEP振幅値の有意な増大を認めた(p < 0.05).アスタリスクはBaselineのMEP振幅値と比較して有意差があることを示す.

佐々木図4.jpg

図4.他動運動の角速度に依存したMEP変化.40°/secと160°/secの他動運動では,各ISIにおいて有意差が認められた(p < 0.05).40°/secの他動運動では,Baselineと比較してISI_90 msのみでMEP振幅値の有意な増大を認めた(p < 0.05).また,160°/secの他動運動では,Baselineと比較してISI_30 msでMEP振幅値の有意な低下が認められ(p < 0.05),ISI_90,150 msでMEP振幅値の有意な増大を認めた(p < 0.05).アスタリスクはBaselineのMEP振幅値と比較して有意差があることを示す.ダガーは40°/secと160°/secの各ISIで有意差があることを示す.

佐々木図5.jpg

図5.他動運動の関節角度に依存したMEP変化.外転10°と内転10°のISI_90,150 msのそれぞれにおいて有意差が認められた(p < 0.05).外転10°の磁気刺激では,Baselineと比較してISI_90 msのみでMEP振幅値の有意な増大を認めた(p < 0.05).また,内転10°の磁気刺激では,Baselineと比較してISI_90,150 msでMEP振幅値の有意な増大を認めた(p < 0.05).アスタリスクはBaselineのMEP振幅値と比較して有意差があることを示す.ダガーは外転10°と内転10°の各ISIで有意差があることを示す.

 
  
原著論文情報
  

Ryoki Sasaki, Shota Tsuiki, Shota Miyaguchi, Sho Kojima, Kei Saito, Yasuto Inukai, Naofumi Otsuru, Hideaki Onishi. Somatosensory inputs induced by passive movement facilitate primary motor cortex excitability depending on the interstimulus interval, movement velocity, and joint angle. Neuroscience. 2018. In press.