林亮太さん(急性期理学療法コース,神戸市立医療センター中央市民病院,運動生理Lab)が国際学会ISOTT2026でThe Duane F. Bruley Travel Awardsを受賞しました!
International Society on Oxygen Transport to Tissue (ISOTT)は,1973年に設立され、酸素が空気中から体内に取り込まれ、各臓器・細胞で最終的に消費されるまでの輸送過程に関わる幅広い研究を推進している国際学会です。
本学の理学療法学科を卒業し、修士課程の急性期理学療法コースに在籍し,神戸市立医療センター中央市民病院で勤務しながら臨床研究を行っている林亮太さんと、理学療法学科の椿淳裕教授らの研究発表が、6月14~18日にコロンビア・ボゴタで開催されたISOTT2026でThe Duane F. Bruley Travel Awardsを受賞しました。
受賞タイトル:Changes in the dynamics of cerebral oxygenation during mobilization before and after the expansion of cerebral infarction: A case report
発表者:Ryota Hayashi, Kentaro Iwata, Tomoya Takahashi, Yukihiro Maekawa, Tatsuki Kamoda, Shunya Hatakeyama, Nobuo Kohara, Atsuhiro Tsubaki
【症例報告の概要と今後の展望】
脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶え、酸素や栄養が届かなくなることで、その部分の脳組織が壊死してしまう疾患です。通常、脳には姿勢が変わっても血流を一定に保つ調整機能が備わっていますが、発症してまもない時期はこの働きが低下しています。そのため、頭を起こす、座るといったリハビリテーションの場面で脳の血流が変動しやすく、それが神経症状の悪化につながることが懸念されます.一方で、この時期から体を動かすことは身体機能の回復に有効とされ、ガイドラインでも推奨されています。安全性を確保しながら積極的に介入することが求められますが、リハビリテーションの現場で脳の状態を客観的に確認できる指標は、現在確立されていません。
近赤外分光法(Near-infrared spectroscopy:NIRS)は、体に負担をかけずに脳の表面付近の細い血管を流れる血液のヘモグロビン濃度の変化を測る方法です。ベッドサイドでそのまま測定できるため、持ち運べる機器の普及とともに臨床現場でも使われ始めています。
今回報告したのは、私たちが実際に担当した患者様の経過です。この方は意識障害があり、ご自身で症状を訴えることが難しかったため、多職種で経過を見ていたものの,脳梗塞巣が拡大していたことの発見が遅れました。そこで、拡大の前と後のそれぞれの時点で行っていたNIRSの測定結果を振り返り、姿勢を変えたとき(仰臥位から頭位挙上45°、そして端座位へ)に脳のヘモグロビン濃度がどのように変化していたかを比較しました。その結果、拡大前は脳梗塞のある側の半球だけに特異的なヘモグロビン濃度の変化がみられたのに対し、拡大後は反対側の半球にも同じような変化が現れ、左右対称的な反応へと変化していました。
ただし、これは1名の患者様についての症例報告です。脳梗塞巣の拡大がこの変化を引き起こしたと結論づけられるものではなく、今後、同様の症例を積み重ねて検証していく必要があります。それでも、意識障害を有しており,血圧や心拍数などのバイタルサインや意識といった「外から見てわかる」所見だけでは気づきにくい「見えない」脳の中の変化を、姿勢変化の場面で捉えられる可能性を示した一例になったと考えています。
今後は、早期リハビリテーション時の脳酸素化動態と神経症状の悪化との関連の検証を進め、脳保護の観点から、NIRSによるリスク管理や効果判定の指標づくりに向けた基礎的知見を見出せるよう努めてまいります。


