【教員紹介】加賀谷美幸先生のご紹介

2026年4月より理学療法学科の助教に着任いたしました、加賀谷美幸(かがやみゆき)です。筑波大学で生物学を専攻し、大学院では京都大学の自然人類学研究室でヒトや類人猿の筋骨格系の形態進化を研究しておりました。フランス国立自然史博物館の地球史部門(仏政府給費留学生ポスドク)、日本モンキーセンター、京都大学霊長類研究所を経て、解剖学教室の助教に職を得て、広島大学と金沢医科大学で人体解剖学実習に携わって参りました。本学は、解剖学と人類学に通じた教員が集まっている全国でも稀有な場所で、その一員として仕事ができることを嬉しく思っています。

・担当科目 解剖学実習Ⅰ・Ⅱ(理・作)、解剖学Ⅰ・Ⅱ(鍼)、解剖学(視)、解剖学実習(視)

・専門領域・研究領域 解剖学、自然人類学

研究紹介

1)胸骨筋の神経支配の調査と形成機序

胸骨筋は、10%ほどの人にみられる、大胸筋の表面に頭尾方向に走る破格筋(変異として現れる筋)です。この筋の由来や支配神経についてはさまざまな説があり、まだ議論が続いている状態です。胸骨筋の多くは1-2センチ幅程度の筋束ですが、これまでの最大級に匹敵する8センチ幅と巨大な胸骨筋が、大胸筋胸肋部の大部分の欠損とともに両側に出現している事例に遭遇しました。

  

この胸骨筋に入る神経を手術顕微鏡や実体顕微鏡で精査した結果、胸骨筋に入る支配神経はすべて胸筋神経から来ており、小胸筋のすぐ上下を通るか貫通して到達していました。これを胸骨筋のない正常例や他の胸骨筋と対応させると、胸骨筋は、神経支配の点では大胸筋胸肋部に相当する筋束である可能性が高いことが示唆されました。

また、この巨大胸骨筋に入る胸筋神経は、胸筋神経のうち頭側の枝ほど胸骨筋の内側に分布していました。このことから、胸骨筋は、大胸筋胸肋部に分化する予定であった一部の筋束が、停止を上腕骨から胸骨柄に移動させるように回転することで形成されたのではないかと考察しました。

加賀谷美幸、川井克司、本間智 胸骨筋の支配神経の精査に基づく胸骨筋の形成機序の考察 第131回日本解剖学会総会・全国学術集会 2026年3月(ポスター発表)

2)腸骨稜に沿って胸腰筋膜下縁に出現する破格筋                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

骨盤の縁である腸骨稜のとくに背部は皮下脂肪が厚く、層状になった脂肪を除去していくと、胸腰筋膜の下縁が広背筋の起始とともに腸骨稜に付着し殿筋筋膜に重なる部分があらわれます。この部分を丁寧に観察すると、30体に1体くらいの割合で、10センチ程度の長さの筋束が存在することを見出しました。このような破格筋は、調べうる限りの解剖学のどの文献にも記載がなく、新たなタイプの破格筋の発見となりました。

    

手術顕微鏡を用いて6側の事例を詳しく観察したところ、いずれも、筋のすぐ上下を通るか貫通する上殿皮神経のうち最も下位分節のものが、体表に出る直前に枝を出してこの筋に入っていることを確認しました。この神経は、多くの場合L2とL3レベルの脊髄神経後枝が合流したものでした。この筋が存在する場合、筋の収縮によって胸腰筋膜の下縁が引き締められる作用があると推測され、しばしば原因不明の腰痛の原因になっているとされる上殿皮神経の絞扼に関与している可能性も考えられます。

また、この筋の外側端は腸骨稜だけでなく、腰三角の近傍で胸腰筋膜のさまざまな深さの層にもぐりこんでいることが分かりました。近年注目されている胸腰筋膜の層構造を考える上でも、興味深い筋と言えます。

 
  
原著論文情報
  

Miyuki Kagaya, Katsushi Kawai, Satoru Honma (2025) Novel muscular anomaly along the iliac crest: Innervation from the superior cluneal nerves and topographical relationship to the thoracolumbar fascia. Anatomical Science International 100:228–242